カバ屋印 マムの素 

 
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  小さなお店を30年以上やっていると
  いろんなことが起こります。
  そして
  いろんな出会いがあります。

  ここに
  ミミさんのことを記しておきます。
  なるべく正確に。

  わたしとミミのために。


olympus オリンパス STYLUS TG-4 Tough 顕微鏡モード 芙蓉 P7280625



15年ほど前のことです。
その女性が入って来たとき、
どきりとしました。

黒のビロードのジャケットに
黒の箱ひだのスカート、
黒のパンプス。
ブラウスは白。

髪の毛はきれいに茶色に染められて
腰近くまで伸びていました。


「銀河鉄道のメーテルさんみたい」

思ったものです。

衣装が黒尽くめに髪が長くて茶色という
だけではありません。

目が大きくて愁いを帯びて
とってもきれいな人だったのです。


その人は言いました。
「パンの耳をこれと交換していただけませんか」
と。

手には
茶封筒がありました。

私は
「パンの耳は、どなたにも無料でさしあげてるから
なにもいりません」

言ったのですが
彼女は茶封筒を差し出してひくことをしません。

私は
仕方なく貰って
「次回からはいただきませんよ」

言いました。

彼女の姿が見えなくなると
私は封筒を覗きました。

ぎょっとしました。

お茶っ葉が入っていたのです。

気持ちが悪くて私は袋ごと捨てました。

翌日
彼女はまた茶封筒を持ってやってきました。
仕方なく受け取ると
お米が入っていました。

私はまたそれを捨てました。

彼女は以来毎日パンの耳をくださいと
やってくるようになりました。

私の方から
「なにもいりません。なにか持ってくるようなら
あげません」

言ったために彼女は手ぶらでくるようになりました。

装いは常に清楚で
髪もきれいに梳かれていました。
話し言葉は
荒んだ家に育った子にありがちな
あるいは
学ぶことを放棄した子のような
無作法な言葉遣いではありませんでした。

プライベートなことは一切
おたがいに話さず
ただパンのやりとりだけでしたが
彼女の所作や言葉遣いで
きちんとした家に育った女性であることは
察せられました。

私たちは彼女のことをミミさんと呼ぶようになりました。

「今日はミミさんはいらっしゃた?」

姿が見えない日は心配したりしたものです。

ミミさんというようになったころには
耳だけではなく前日の残りのパンを
差し上げたりするようになっていました。


どういう事情がこの人にはあるのだろう。
これだけの容姿と
対応が出来るのなら働けばいいのにと思ったものです。

もしかしたら暴力夫から逃れているのかしら。
ストーカー?


1年以上続いたでしょうか。
私のなかでミミさんはとても大切な人に
なっていました。

が、
ミミさんは突然
姿を消しました。

フェイドアウト


でも
私はずっとミミさんのことを
忘れたことはありませんでした。


olympus オリンパス STYLUS TG-4 Tough 顕微鏡モード 芙蓉 P7280627





それが
3年前の11月のことです。

お店に
ジャージの上下を着た
ブクブクに太った女性が現れました。
それはとってもだらしのない感じです。
あしもとはサンダルでした。
目鼻も肉に埋もれていましたし
お腹は三段腹がみてとれました。

顔色はドス黒く
唇は腫れて紫色。
顎が歪んで
キチンと口が閉じられない様子で
舌が出ている状態です。


でも
私はすぐにミミさんだとわかりました。

変わり果てたミミさんでしたが
髪だけは昔のミミさんのままでした。

私は
随分と動揺しましたが
気が付かないふりをしました。
その人は黄色いお財布をだしてメロンパンを
2個買ってくれました。

姿形は異様に変わってしまったけれど
ミミさんがお財布を持っていたこと
お金を持っていたことに
私は安堵しました。

それから3日続けてミミさんは来ました。

3日目に声をかけました。

「どうしてたの。心配してたのよ」
と。

ミミさんは
嬉しそうな顔をして
「覚えてくれていたんですか」
と、
応えてくれたのですが、
曲がった口、伸びた舌では思うように
しゃべれず
それは幼児のような喋り方でした。

いったい彼女に何がおきている、
おきたのやら。

彼女はいつも
メロンパンを買ってくれました。

12月もクリスマス間近。

ミミさんはリボンで飾られた小箱を
私に差し出しました。

「ママさんにはとってもよくしてもらったから。
ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」


開けてみると
シルバーのネックレスでした。
ヘッドは十字架。

高かっただろうにと思いましたが
喜びの方が勝っていました。
ミミさんの前ですぐにつけました。

それから2日、彼女はあらわれませんでしたが
現れた日に

「ほら、ちゃんとつけてるのよ」
と言って
ハイネックのセーターの首元を伸ばして
ネックレスを見せたものです。

彼女は
子供みたいに喜んでくれました。
私も身につけているのを見せることが
できて嬉しくなりました。

けれど
その日を最後にミミさんはまた消えてしまいました。

あの不健康そうな身体で
いったいどこにいったのだろうか。
どこかに保護されたのだろうか。

過酷なことが彼女の身におこっているのは
間違いありません。
私は、パンをあげたり
ただ気に病んであげることしかできない。

それしかできないということ。
それが無意識にストッパーになって
プライベートなことに踏み込まなかったのでは
と今では思っています。

ずっと
私はミミさんのことを思っていました。
身内でもないし
親しく話したこともないのに
自分の妹のような思いがミミさんにはあると
いってよいでしょう。


そのミミさんが
昨日(1月25日)、現れたのです。

恥かしそうな顔をして店に入ってきて
「パンの耳ありますか」

言うではありませんか。


私は
笑ながら近づいて「あるよ」
と言って
肩に手をおいて彼女を揺すりながら
「急にいなくなるんだもの。
どうしてたの。どこに行ってたのよ、心配してたんだから」

前にも一度言ったことがある同じ
台詞をはいたのでした。

ミミさんは
前よりも少しやせてたけど
相変わらず太って
顔色は悪く、口は歪んで舌がでたままでした。

それでも
なんとか生きていてくれていたことに
感謝です。


また来てくれると私は幸せなのだけれど。




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